平成15年X月Y日

環境大臣  殿

           外来種対策に関する措置についての要望
          



 日本全国の主要な港湾と沿岸海域には、国外から移入された海産底生生物(ベントス)が数多く定住しています。1920年代以降現在までの約80年間に、少なくとも48種もの移入海産ベントスが発見されており、そのうちの20種以上は、現在でも日本に定着していることが明らかになっています。
ムラサキイガイやカサネカンザシに代表されるこのような移入種は、時に爆発的に増殖してマガキなどの在来海産生物の生息を圧迫しています。また、汚損生物として、カキ・アコヤガイ養殖などの水産業や、船舶、臨海工業地帯の取水施設などに付着被害を与え続けており、その除去や防除のために、毎年、莫大な金額の費用と労力とが費やされています。特に、ムラサキイガイは、量的にも被害の程度の点でも、この種に匹敵する移入生物は陸上にもいないとされ、侵略的外来種の最たるものと考えられています。こういった移入種の多くは、かつては大都市圏の港湾とその周辺の海域に限って分布していましたが、近年、全国の沿岸海域へと着実に分布を広げている種類も多いことが、本学会などの調査によってわかってきました。さらに、水産生物の移植放流事業の進展にともなって、日本在来の海産ベントスが国内の未分布地に導入され、被害を引き起こす事態も生じています。
近年になっても新たな移入は絶えず、過去20年間に11種もの外国産ベントスが発見されています。IUCN(国際自然保護連合)によって選定された「世界の侵略的外来種100種」に挙げられている生物が、最近日本の未分布地で発見されたことも報じられており、さらなる侵略的外来種の到達と分布の拡大、被害の発生が懸念される状況にあります。
 このような現状を鑑みて、今回の貴省による移入種対策に関する法案作成は誠に時宜を得たものであり、関係者ならびに諸機関のご努力に敬意を表し、その施行によって最善の成果が挙がることを期待しております。
しかし、本年10月に中央審議会野生生物部会移入種対策小委員会によって答申された「移入種対策に関する措置の在り方について(中間報告)」(以下、「中間報告」と言及します)では、海産移入ベントスに対する配慮と検討が充分に尽くされているとは思えません。上記の諸事情をご勘案いただき、より広範かつ実効性のある移入種対策が盛り込まれた法案が作成されますよう、以下の3点の意見を具申させていただきます。
 
1.  非意図的導入に対する検討と対策の強化
 移入海産ベントスの場合、外国産の生物が意図的に導入されることは少なく、国内外から移植・放流される水産生物の種苗や船舶のバラスト水に混入し、あるいは船体に付着して、非意図的に持ち込まれる種の方が多いことが知られています。こういった非意図的な導入に対する措置について、「中間報告」での言及は少なく、その対策の検討も十分ではありません。非意図的に導入されるこのような生物についても、それぞれの導入手段毎に、関連する機関や業界・業者に対して導入防止の措置を義務付け、モニタリングの体制を確立し、侵入の予防的かつ効果的な施策が講じられるよう、要望致します。

2. 国内移入に関する検討と対策
国外から日本に導入された海産生物であっても、国内での分布の拡大には、水産生物の移植放流事業や船舶の運行に伴った、国内での人為的移動が、深く関わっていることが推察されています。また、日本在来の海産生物ではあっても、その種が人為的に新たな場所へと移入されると、移入先の在来種や生態系に大きな影響を及ぼす場合があることも知られています。この点から、移入種対策では、「国外からの移入」と「国内での移動」の両面に対処することが必要です。
しかし、「中間報告」では、この区別が明確ではなく、もっぱら国外からの移入種に関する対策が検討されており、「国内での移動」に関する対策や措置に関する記述が見られません。国内での移動に対する何らかの措置または対策を検討し、法案に盛り込むことが望まれます。

3.  関係省庁との連係の必要性
船舶のバラスト水への混入による非意図的な導入に関する対策については、国際海事機関(IMO)によって国際条約の制定と採択の作業が進められており、日本では、これまで国土交通省総合政策局環境・海洋課がこの問題に取り組んでいます。水産物の国外・国内からの移植放流事業は農林水産省の管轄でもあり、船舶や臨海工業地帯等での汚損被害は、経済産業省にも関係する問題です。貴省も、移入種のバラスト水への混入の実態と海洋生態系への影響を調査し、処理技術や規制に向けての制度を検討する姿勢を打ち出されましたが、関係省庁との連係をはかりつつ、総合的かつ効果的な対策が講じられるよう、要望致します。


                    日本ベントス学会 会長  向井 宏