和歌の浦干潟環境の保全と改善に関する提言
日本ベントス学会
和歌の浦干潟は和歌川河口部の砂嘴内に形成された広さ約35ヘクタールの河口干潟である。現
在和歌山県では、この和歌の浦干潟の砂嘴河川側にあるコンクリート護岸を新しく造り直す計画が進行中である(事業主は県、予算6億円)。この新しい護岸は現在の護岸より1.9m干潟側に長さ973mにわたって矢板式工法により造られ、この工事により砂嘴の内側の干潟0.2ヘクタールが消失することになる。
和歌の浦干潟は、優れた景観により万葉の昔から人々に愛されてきた。しかし、この干潟も日本各地の多くの干潟と同様、近世以降大規模な埋立等が行われてその風景はかなり変わってきた。それでもなお、この干潟はその規模で近畿地方で最大級の面積を有し、かつ唯一といってよい本格的な河口干潟である。県の生物調査によると、この干潟において289種の生物(マクロベントス)種の生息が確認され、その中の37種は特に貴重な種(和田ら 1996 で調査された、いわゆる干潟レッドデータブックで絶滅寸前種、危険種、希少種に指定:ハマグリやコゲツノブエ、ハクセンシオマネキなど)が含まれており、この干潟がきわめて豊かな干潟生物群集を有することを示している。この干潟は砂質から泥質までの幅広い底質環境を持っており、しかも、現在の干潟を取り巻く環境が比較的良好なことが多数種の生息する原因だと思われる。また、和歌の浦干潟に生息する豊富な干潟生物は多数の幼生を外海に放出しているものと考えられ、大阪湾から紀伊水道にかけて存在する他の小規模な干潟に生息する生物の資源提供場所になっている可能性があり、和歌の浦干潟の生物群集の衰退は、隣接する干潟の生物相にまで影響が及ぶ危険性もある。このように、和歌の浦干潟は歴史的観点、自然環境的観点の両方からきわめて価値の高い場所と位置づけられる。
今回の工事では現在の護岸から1.9m幅の干潟が973mにわたって埋め立てられるが、埋立部分はもちろんのこと、工事中、さらには工事後にわたる広範囲かつ長期的な干潟生物への影響が懸念される。埋立予定域には、絶滅寸前種のワカウラツボや危険種のマルウズラタマキビ等のきわめて貴重な生物が生息しており、埋立予定域およびその近隣の干潟には、絶滅寸前種であるイボウミニナやオサガニを始めとする多くの貴重な生物が生息している。したがって、工事によるこれらの干潟の生物への影響は避けられず、慎重な対応が求められる。
また現在、和歌の浦の汀線部のほとんどは護岸化されている。そのため、本来存在する陸上から干潟への移行部としての湿地環境(ヨシ群落など)が失われている。この移行部は、干潟に特有な底生生物の生息場所であり、餌場や休息場所として利用する野鳥にとっても重要な環境である。したがって、和歌の浦干潟環境の保全・再生の観点から、護岸工事にあたっては、環境修復も含めた検討が求められる。
以上、日本ベントス学会は、和歌の浦において現在計画されている護岸工事の見直しとともに、干潟環境の長期的展望にたった保全・再生計画の策定を提言する。
2002年11月2日 2002年度日本ベントス学会総会